サマーコレクション
(大台ヶ原‐蒸籠グラ)

(記・ツヨシ)

H19.12.24〜25
とある岩場の季節外れなルート


12/24
9:30 自宅発
12:30 通行止
13:00 チャリ
16:00 駐車場着
18:00 寝る

12/25
5:30 起き
6:50 出発
7:40 取付き
9:30 T3
11:10 T6
13:00 終了点13:15
13:45 駐車場14:15
15:45 車

NEW装備:モンベルサーマラップパンツ。ワコールの肌着。

12/24
5時に起きたのになかなか準備が進まない。
目的地の降水確率は20%。明日は40%だ。
雨を覚悟の登攀。体感グレードは?プロテクションの距離は?
未知のルートに対する不安に頭がすっきりしない。
でも、初めてというのはそれ以後味わうことのできない感動を与えてくれる。
そしてその瞬間を、より最高のものとする為にはその時のシチュエーションも大きく影響すると思う。
今回の要素は、冬期、単独、悪天、通行止、クリスマスといったとこか。

成功したら大満足に違いない。
そうして、嫌がる体を押さえ込み、計画を実行した。

国道からドライブウェイに入ると、想像していた大きなゲートはなく、とんがりコーンが置いてあるだけ。
そして、そのコーンも車が通れる幅にずらされているので、そのまま進入する。
積雪はなく、凍結もしていない。
4、5km走って、もしかして、このまま上まで行けちゃう!?と思った頃、通行止となった。
車を停めて自転車を引っ張り出す。

確信犯である。
適当にくくり付けたザックが不格好だが、見られる人もいないので気にしない。
残りの約15kmを、道の傾斜に合わせて押したり、漕いだり。
なかなかハードだけど平湯峠に比べたら全然ぬるい。
ザックを背負ってないから足の負担もだいぶ楽だし。
全ては帰りのため。お楽しみは帰りのダウンヒルだ。
しばらく上ると、車が止まっていて人もいる。

落石対策の工事の人達だ。
やばいな〜 怒られるかな?こっそり通り過ぎようと思ったけど見つかって、でも、「おっ、上まで行くんか?遭難すんなよ!」と肯定的な笑顔で接してくれた。

1時間後、右手に「温泉12km」の看板とゲートがあり、こっちへ回った方が楽だったと気付く。
標高が上がるに連れて、雪が降り始め、稜線上のこの道は風がきついところもある。
道の端にも雪が出てきて、しまいには完全に雪に覆われた。
抵抗が少なく楽なアイスバーンの上では、旅仕様のスリックタイヤは無防備で2回コケた。
今日は天気がいいはずなのに。明日はどうなるんだろう。
残り6km地点からは硬い雪にタイヤがめり込み、抵抗が大きくて非常にハードになった。
積雪は5〜6cmかな。
しんどさを紛らわすため肉体と精神が分裂し、空想の世界へ入り込む。
そう、ここはアラスカ極北の大地。気分はグレートジャーニー。
関野さんはどんな景色を見たのだろう?
あー楽しい♪

そうして3時間で駐車場に到着。
ハイシーズンには満車になるというこの場所には人の気配はなく、踏み跡のない綺麗な白の世界。ガスが出て薄暗く、どこか陰気な感じがした。自販機はもちろん停止。トイレも閉鎖されていた。横の休憩所も少し当てにしていたのだがダメだった。
使えるのは大きな屋根のみ。
その下に我が家を設営する。木製の床は乾いていて快適だった。
水は持参しているので一度中に入るともう顔を出す必要はなかった。
アウトドア雑誌を読んで寛ぎ、明日の為にカツ丼を食べて早めに寝た。

数時間後、暑くてたまらなくて目が覚めた。テント内は‐3℃。ザックから足を出し、シュラフ、ウェアのジッパーを下げ、帽子をとった。
不安からか悪夢に何度もうなされて、今度は寒くてたまらなくて目が覚めた。
もう5時半。起きる時間だ。
恐る恐る外の様子を伺うと、昨日よりも濃い霧と10cm程の積雪。
完全に雪山の世界やん。道に迷うことはないと思うし、壁には雪は付いてないと思いたいが、この寒さに指が耐えれるか?
状況に応じて使い分けようと軍手、フリース、革、オーバーと持っているものの不安。グローブ着けたまま登れないところもあるだろうし。
敗退はやり難いし。別ルートにしようか、ギリギリまで迷う。
靴を履いてスパッツを装着。まだ迷ってるのに、足は別ルートの方向へ歩き出す。
林道の入口で写真を一枚撮ると、意外に明るいことに気が付いた。
やるか?
直感が、やっとけ!と、ひらめいたので、やっぱり予定してた方へ変更する。
その瞬間の気分で予定を変えれるソロの気楽さ。

尾根から下る地点には赤と白のテープがあった。
その先もテープが案内してくれて、岩の方へ斜めに降りて行く。
この前は涸れ沢を直登して帰ったけど、こっちの方が楽だな。
尾根から下は雪はなくて秋に戻ったようだ。
取付きに着いてルート名の書いた小さなプレートを確認、一礼してすぐに登り出す。
天気はいつ雨が降り出してもおかしくない状態。
急げ!急げ!
職場でよく言われる「慌てず迅速に」を実行する。

1Pは簡単なルンゼで2Pからが実質のクライミングの始まり。
誰かが黒いフリース帽と軍手を忘れていた。
ここで靴を履き替えて、カッパの上からハーネスを装着。裾は膝上までまくりあげておく。手は素手でいけそうだ。
2Pはホールド、スタンス共に豊富でウォーミングアップに丁度良かった。
今回はATCは使用せず、マッシャーのみ。ゲレンデで練習して確実に止まることを体に覚えさせたので思い切って登れる。
それにしてもボルトが多いな。途中でヌンチャクが足らなくなるんじゃないかと心配になり、2本飛ばしたけど、結果的には手持ちの14本で丁度だった。(このピッチが最多)
ザックは100均のカラビナでビレイ点に止めてある。登りには使えないけど、軽量だし何かと役に立つアイテムだ。
リーチがあれば9という3Pも問題なく、楽しんで通過。
登り返しのときはスピードアップのためATCのみ使用する。
アッセンダーがあった方がもっと速く楽に登れると思い、欲しくなった。
でも、リードのときのビレイデバイスとしては使えないだろうし、1台で両方使えるような優れものはあるのかな?
また相談してみよう。

核心の4Pと5Pはつなげて1ピッチで登った。
うすカブりの核心は、さすがに鼻歌マジりにはいかず、マジになる。
T5の大テラスには大木があって、そこまで登りたかったけどロープが足らないので、すぐ下の同じぐらいの大木を終了点とした。
6Pはどう進めばいいのか少し迷った。
テラスに上がってみてもよくわからない。
何度も手書きのトポと壁を見比べる。
左へトラバースするのはわかるけど、凹角をいくのか、さらに左へいくのか?
テラスの大木から少し下って、踏み跡をトラバースするとボルトがあり、さらに左の木の方へいくことがわかった。
グレード相応の木登りで、登ると言うより分け入るという感じ。スリルを求めるならロープなしでも大丈夫。
なんでこっちを登らすのか疑問に思ったけど、それは次のピッチの為だとわかった。

7Pはハング下まで右上して名物のトラバース。ハング下までは簡単だけどボルトは少なめ。
ビレイ点からはボルトが見えない為、大木の残置スリングに惑わされないように注意。
フレークのガバが続くこのトラバースは足元の切れ落ち方が感動もの。
高度感1位を更新した。
そのせいか、日本離れしていると感じ、気分はエルニーニョのトラバース。足をフレークまで上げてみようか?
フレークの内側は浮いているところが多くていやらしく、スタンスも乏しい。
腕をパンプさせてなんとか終了点に着いた。

抜群に楽しくて写真の枚数は増えたけど、これが9?という厳しいピッチでした。
でも、これで終わりじゃない。もう一度登り返して初めてこのピッチは終わる。
トラバースは楽しいけどソロにはきつい。
だけど天気は依然不安定で、休憩している間はない。
すぐに下降にかかる。

2回目はさっきよりも手の力が抜けて落ち着いて登れた。スタンスもよく見えて、進むに連れてだんだんと小さくなることがわかった。
8Pは、しみ出した箇所があったけど特に問題はない。
眺めが良かった。
9Pも簡単だったけど、途中あまりにもランナウトしているので木でランニングをとった。
最後のハングはこれまた厳しくてこれが9ですか?と口に出す。
小さなスタンスに乗り込み、斜面に右膝を付いて必死で這い上がった。
終わった〜。

トラブルがなかったせいか、サンダーほどの満足感はないものの、やっぱりトライして良かったと思った。
そして天気が持ったことに感謝。雨を覚悟と強がってみても、降らない方がいいに決まっている。
終了点でおにぎりと大福を食べてすぐ駐車場へ向かった。
まだまだ先がある。車に着くまでは油断禁物。
尾根道は途中でルートを見失い、登山道の階段を登り切ったところに出た。

駐車場に着いたらすぐにテントを撤収してチャリで下り…たかったけど、タイヤがめり込んで漕いでも漕いでも進まない。
下だる一方だと思っていたこの道は、意外にアップダウンの繰り返しでしんどい。
6km頑張ってやっとサドルに跨がることができた。
今日も工事は行われていて、昨日のおじさんが「おっ、おかえり!」と声を掛けてくれた。
うれしい。
たった1日独りになっただけなのに、人間っていいな。と思った。

路面に雪がなくなると時速40kmオーバーでかっ飛ばし、制動の限界に挑戦。寒い寒い。
無事に車に帰って一安心。
妙に人恋しくなったので国道へ出てすぐのラーメン屋に入った。
ここは老夫婦が営業する鹿肉や猪肉も食べれる店で、僕は鹿天ラーメンを注文した。
ラーメンが来るまで積極的に話し掛けて会話を楽しんだ。
壁に掛けてある、おじいさんが撮った写真。雲が滝のように流れている。
滅多にお目にかかれるものではなく、この日は鉄砲をやめてカメラ一本になったそうだ。
7年前に来た時とは雰囲気が違うので、そのことをおばあさんに尋ねると、狭くて暗いから改築したそうだ。
そして、僕のことを「見たことあると思ったわ」と言う。面白い人だ。

すっかり打ち解けた頃、おじいさんが奥から「これなんだと思う?」と、知り合いが拾ったという物を出してきた。
大きめの携帯電話みたいなそれはGPSだった。おばあさんは猫に小判と笑っているけど、おじいさんは「このボタンを押すとこうなって…」と説明してくれて随分詳しい様子だった。
その間におばあさんは何度もお茶を入れてくれて柿の葉寿司もサービスしてくれた。…のだが、食べた途端に歯に詰めた銀が外れてしまった。
なんでこんな柔らかいものでー!!
限界にきていたようだ。
今回ばかりは何ごともなく帰れると思っていたのにぃ。

おじいさんは帰りの道程を心配してくれたが、おばあさんは「なーに、今日中には着くさ」と、いいコンビだ。
サービス分を少し多めに支払って店を出ると、あばあさんが慌てて出てきて柿の葉寿司を2個握らせてくれた。
ありがとう。
皺々の手が印象的で、また寄ろうと思った。

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