槍 ヶ 岳
(北アルプス)

(記・ツヨシ)

H19.11.13〜15

11/13
21:30 自宅発

11/14  快晴
02:30 あかんだな駐車場
08:15 上高地出発
10:50 横尾
11:50 槍見河原
13:15 槍沢ロッジ
16:30 大曲り手前でテント設営。メシ。仮眠。
20:20 アタック
01:00 敗退
03:00 テント

11/15  晴れ→くもり
07:00 起床
08:20 撤収
09:50 槍沢ロッジ
11:40 横尾
15:30 上高地

装備:いつものに加えて今回からテルモス、長めのオーバーグローブ、アルファ米、山スタCWXを追加。

槍ヶ岳。その名前は幼い頃から聞いたことがあったが、富士山のように映像で見る機会は無く、なんとなく槍のような尖った山なんだろうと勝手に想像し、なんとなく槍ヶ岳とエベレストには登りたいと子供心に憧れていた。
それを実現するのは今年だ!今が旬!
と、なんとなく思い立ち、師匠に相談するが単独でのバリエーションは厳しいらしい。となると槍沢からのノーマルルートだけど、冬期は雪崩で使えない。
槍ヶ岳山荘のスタッフに問い合わせると、最近下山の時に見た感じでは、ババ平から下は雪がないとのこと。
僕の仕事の休みは14、15日。
バスに問い合わせると最終は15日の17:00だと言う。

運命だ!行くしかない!
ギリギリだが今年一泊二日単独で槍にアタックする最後のチャンスだ。

こうして天気のことなど気にせず、自分の晴れ男度を信じて計画を立てたのであった。

今回の山行は長時間の行動が予想されるため、装備の軽量化を計る。
ガス、コッヘルは各1。着替えは無し。
メインの食糧にはアルファ米をチョイス。100gが280gに化けるらしい。
その他の行動食も重さ、味、価格、カロリーのバランスを考えて選ぶが、だんだんとめんどくさくなってくる。
えーい!!20gや30gケチるんなら好きな方を選んでやる!!
あれもこれも遠足気分でカゴに詰め込み、900mlのジュースまで。
好きな物をガンガン食べてガンガン登ろう!!
…すでにアルファ米の効果は誤差に…

11/13
出発間際、母親が「今日は大山に雪が積もったらしいから気をつけて」と言った。
僕は言葉通り「大山に雪が積もった」とだけ認識して、それがどういうことなのか想像出来ないままに車を走らせ、頭の中は槍の穂先の岩場でいっぱいだった。

11/14

あかんだなの駐車場前で仮眠。
目が覚めると路面がガチガチに凍り付いており、まともに歩くことも出来ない。車の向きを変えるのもズルズル滑ってひと苦労。
そして、駐車場の営業は15日の17:00まで。上高地発の最終バスと同じ時間だ。
出れないかも。凍結で坂を上れないかも。
駐車場に入れるべきか、入れざるべきか?
思案していると、係のおじさんがやってきて、
「時間を過ぎても出るのは出れますよ。」
天候についても、「今日はいい天気になりそうだからノーマルタイヤでも大丈夫でしょう」

OK。車を入れて出発準備に取り掛かる。
すぐに歩き出せるようにバスの中で朝食をとり、装備を整えた。
最終バスに間に合うか分からないので切符は片道だけとした。(軽くするため札だけ持ってたのにおつりが950円。イタいよ〜)
最悪は中の湯まで歩いてヒッチ。
最悪の最悪はトンネルも歩いてやる。

上高地到着後、脇目も振らずすぐに歩き出す。
横尾までに少しでもタイムを稼ぎたい。
今回はギリギリなんだ。
途中、土砂崩れによる倒木が何か所かあったが、全体的に平坦で想像通りの感じだった。
天気は最高!雲ひとつない快晴だ。

 

前穂の北尾根(だと思う)を眺めながら横尾まではノンストップで到着。
横尾山荘の工事で人がたくさんいる。トイレもあるし、ここはまだ下界だな。
しばらく行くと左手にのっぺりとした黒い岩壁が見えてきた。
あれが噂の屏風岩というやつか。
残念だけどこの位置からだとイマイチ迫力が感じられない。
でもそれでいい。今回の目的は槍だ。
来るべき時がきたら、いつかはきっと…。

それにしてもこんなに雪があるとは予想外。深さはクルブシからスネぐらい。
山荘の人の話を100%鵜呑みにしていた訳ではないけど、もっとガレた道を想像していた。
まぁ、でも水に困らないからいいか。

槍見河原から初めて槍を眺める。
メッチャ遠いやん!あんなとこまで辿り着けるんかいなぁ。

 

二ノ俣手前の橋は真ん中に幅20cmの板を残すのみで、5m下の川の流れがよく見える。
雪対策かな?なかなか楽しませてくれるじゃないか。



まだ12時半だというのに、もう太陽は尾根の向こう側へ消えてしまった。なんだか急に寒気と寂しさを感じる。

槍沢ロッジを境にルートは一気に厳しくなった。
トレースは無くなり、ラッセルは膝までに。
慌てるな!バテたらだめだ。
ルートを間違うな!貴重な一歩を無駄にするな。
右手にはカブト岩が出現。



すごい!あれは絶対ルートがあるぞ。
目を凝らして見るが終了点などは見えない。
壁には太陽の光がよく当たって乾燥しており、暖かそうだ。今日は絶好のクライミング日和だなぁ。 

でも今はラッセル地獄。ワカンがあったら…。日程がもっと長ければ…。
たらればとはこのことか。

槍沢キャンプ地からはさらにひどかった。
一歩出すたびズボボボボ…。ズボボボボ…。
表面はサクサク、なのに中はしっとり。グルメ番組でありがちな雪。
カメのような歩みの遅さ。
遠くを見るな!足元を見ろ!確実に進んでるじゃないか。
何時になってもいい。歩くんだ!

しかし、この傾斜の無さが弱った気持ちに追い討ちをかける。
進めば進むだけ明日も同じ苦しみを味わうことになるんだ。。。
ほとんど進んでないのに時間が経つのはとても早い。
もがき苦しんでも全然視界は変わらない。

焦り、くやしさ、苦しさ、悲しさ、不甲斐無さ、あらゆる負の感情が目から流れそうになる。

チクショウ!チクショー!
「クソッタレー!!」
叫んでみても何も変わらない。

…もうダメだ。もう足が上がらない。
それでも、「もう一度槍が見えるところまで」
と目標を決めて最後のあがき。

人には何とでも言える。でも自分の気持ちはごまかせないぞ。本当に力を出し切ったのか?
去年はあんなに頑張ったじゃないか。
(高いガソリン代払って来てるのに)

今日という日は一日しかないんだ。次回登頂を果たしたとしても、ここであきらめたら一生後悔するぞ。
(高い高速代払って来てるのに)

さらに30分程頑張って、再び槍の穂先(と思われる)が見えるとこまできた。
登山道の脇を踏み固めてテントを張るスペースを作る。
足が上がらないので両手で持ち上げて道具のように使う。

17:30 2030mにて行動終わり。水を作ってメシの準備。
アルファ米の待ち時間の間にラーメンを作って食べた。

…っと、うっかり1時間寝てしまい、アルファ米はすっかり冷えきって何ともヘビーな味だ。

でも体は驚く程すっきりしている。8時間ぐらい寝た感じ。

今日の行動を振り返る。
そういえば登攀具全然使ってないなぁ。
今回も山をナメていた部分がある。そして、それを山に見透かされていた。でもそれに気付いたことでまたチャンスが出てきた。
まだ戦えるはずだ。

易きに流れず、俗にまみれず、ただひたすらソロに徹して自分を生きる。
そうだ。山野井さんならどうするか?。。。
もちろん夜間登攀だ。
その方が雪が締まってラッセルもマシだろう。

早速、水作りを開始。
熱々のコーヒーをテルモスに詰める。
ヘッドランプの電池を新品に変えて、手探りで交換する練習もしておく。
20:20 必要装備だけを持ってアタック開始。
01:00をメドに位置と雪質を見て進退を決めよう。
空を見上げるとたくさんの天然ライトが。仲間だ。これは心強い。明日も天気は良さそうだ。

思った通り、体の沈み方が全然違う。でも雪質というより、ザックの軽さの方が大きいだろうな。
標高が上がるにつれてサクサクの部分が厚くなるのがわかる。
踏み抜かないよう工夫する。
四つん這いで行くと体力的にきつい。
陸上のクラウチングスタートのような姿勢。腰への負担はあるものの効率よく進める。
10歩行っては頭を上げて方向を確かめる。
調子良く進み、もう大丈夫かな!?と思って体を上げるとズボッ!! 1mもはまる。
神の戒めか。山登りはやはり人生の縮図だと思う。
まだ二足歩行へは進化出来ないようだ。

ランプを消してしばし休憩。月は出ていないのに星だけでかなりの明るさ。流れ星もチラリ。
これを見れただけでもテントから出てきて良かった。
暖かいコーヒーがありがたい。



ときおり発見する岩に書かれた〇マークを頼りに方向を修正するが、
ついつい登りやすい岩場を求めて東鎌尾根の基部へ寄って行ってしまう。
知らないうちに傾斜が大きくなってきていて、ピッケルを出してトラバース。
2級ぐらいあるんじゃないか?

槍沢カールに入り、ボコボコとした雪崩跡の上を登る。
幾分歩きやすくなったものの急登が辛い。

なんとか殺生ヒュッテまで!…行けたらいいな。
息を切らしてひたすら登る。少し風が出てきたか?

上方の闇に屋根を見つけて、やった!!
でも、辿り着いてみると小さな雪庇だった。

がっがりだ…。
ここで時間はタイムリミットの01:00。2520m。
腰を下ろしてコーヒーを飲む。
空の星は消えて、真っ暗だ。やっぱり天気が変わっている。
ここで敗退を決定する。
登頂は出来なかった。槍ヶ岳にはKO負けしたけど、自分に勝つことができて良かった。
自分の山登りができたことを嬉しく思う。

ここまでこれたのはCWXのおかげか?はたまた、出発前に読んだ「ソロ」のおかげか?

テントに戻って爆睡。

11/15

今日も天気は良さそうだけど、上空では風があるみたいで雲の流れが速い。尾根上では雪が舞っている。



テントをたたんで下り始めるがやはりペースが上がらない。
登りのトレースは有っても無くても同じ。

槍沢ロッジからは雪は浅くなりスピードアップ。
でも天気が悪くなってきた。風が強くなり、空気も湿っぽい。

槍見河原からはもう槍は見えなかった。
横尾に着いて、単独行の女性と出会う。
彼女も13日の雪の為に予定通りの行動が出来ず、涸沢へ向かう途中でビバークしたらしい。
すごい。ビバーク…。
僕も一度は経験しておいた方がいいかもしれない。
その人の歩くの速いこと速いこと。
あっという間に置いて行かれてしまった。

横尾から上高地までは異常に遠く感じ、体もあちこち痛くて、何度ザックを降ろしてヘタり込んだことか。
30分と続けて歩けない。
昨日の夜間行動の方がまだマシだ。

たかが3時間。されど3時間。と、3時間50分もかかって上高地に着いた。
ビジターセンターに立ち寄って槍の写真を眺める。
テント場から見たのは本当に槍だったのか?
それは分からずじまいだった。

反省:
たまたま晴れたものの、天候に関心が無さ過ぎた。
タイヤチェーン不備。

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