馬鹿尾根というけれど・・・

(南アルプス 仙丈ヶ岳〜塩見岳山行 覚え書き)

(記・あまな)

★馬鹿尾根?
この仙塩尾根(せんえんおね)は
「展望がない上にアップダウンがきつくて歩くのが馬鹿馬鹿しくなる」
という意味で馬鹿尾根と呼ばれているらしいけど、私はいい尾根だと思う。
確かにエグイほどのアップダウンがあって体力的にはきついけれど
倒木だらけで歩きにくいのは横川岳周辺だけで、
あとはちゃんとした道で展望のきくところも多いし、
ガレ場・お花畑・ハイマツ帯・草原・湿地帯・樹林帯・・・と下りきったら
また湿地帯・草原・ハイマツ帯・お花畑・ガレ場・・・
空が広くなったり狭くなったり・・・
変化に富んだ楽しい尾根歩きができた。

意外と暑くなく、汗をかいたのは仙丈の登りの初めのうちだけ、
それも木陰に入ってしばらくすると寒くなるほど・・・。
ハッカスプレーが効いたのか虫にも刺されずにすんだ。

★ついていっていいかと言われて・・・
曇りで少しガスのある中、北沢峠から歩き始めようとしたところ、
バスで見かけた若いカップルに
「初めてなので仙丈ヶ岳までついていっていいか」と言われた。
ほんとはあまりよくないことだけど・・・
はぐれたとしても、お盆休み中の100名山、人も多くて道もはっきりしているはずだし、
そのうちに若くて日帰り荷物の彼らに先に行ってもらうことになるだろうと思い、了承。
しかし・・・そんな申し出をするだけあって初心者中の初心者らしく彼らの方が遅かった。
私たちも最初のうちは待っていたけど、身体が冷えるし、
先が長いのでいつまでも待つわけにはいかずだんだん間があいてくるように・・・
あとのバスで来た人たちが次々と登ってきて人が多く、
なんの心配もないと思われた。
それでも責任は感じるので、仙丈ヶ岳ピークでも昼食を食べながら待ったけど
彼らは一向に追いついてこない。
ガスが晴れてきて大展望とともに彼らの姿が見えたところで先に行くことに。
この天気で仙丈ヶ岳往復なら心配することはないし、
私たちは人の心配をしている場合ではない・・・。

★携帯中毒?
仙丈ヶ岳のピークでは多くの人たちが登頂写真を撮るまでははしゃいでいても
あとはみんな静かに座って大展望を楽しんでいるのに・・・
相方は携帯の着信を見てはあっちこっちにかけ直し
急用でもなくなんの関係もない話をえんえんと・・・
社交家のくせにKY(笑)。
でもこういう天真爛漫すぎてハタ迷惑な人の方が
気使い症の私なんかよりよっぽど人に好かれるという不条理(笑)。
携帯中毒かと思うほどのマメさが人気の秘密かもしれないけど。

★トランス・ジャパン・アルプス・レース
大仙丈ヶ岳を過ぎたあたりで軽装のランナーに出会う。
どこからどこまで走るのか、しんどくないのか、どうして山を走るのか・・・
等々知りたくてうずうずしても足をとめさせたら悪いと遠慮するのが私、
「どこまで走るんですかあ?」と無邪気に話しかけるのが相方(笑)。

トランス・ジャパン・アルプス・レースという日本アルプスを縦断しながら
日本海から太平洋をつなぐレースの最中とのこと・・・
3000m級の山々を登っては下り、また登って・・・日本海から太平洋!? 
人間の足でそんなに歩けるの!? 
っていうか走ってるしこの人・・・
その上、このレースのタイムリミットはたったの8日!!

レース中なのに足をとめて笑顔で答えてくれたその人・・・
確かフランスのアドベンチャーレース「レイドゴロワーズ」に
日本チームのリーダーとして出場してた人では・・・?
テレビで見たその人はなんだかキツそうだったのに
目の前にいる人はとても優しそうで別人みたい・・・
自信がなかったので、帰ってきてからネットで確認。
やっぱり田中正人氏だった。
アドベンチャーレースの日本の第一人者。
すごい!! すごい人に会ってお話しちゃった!! わーい!

短い話が終わるとあっという間に見えなくなった。
その時点では2番だとご本人がおっしゃってたけど、
最終的には優勝された。
それも5日間10時間32分というすごいタイムで!!

★仲良しの黄色とピンク
苳の平は樹林帯の中にあってあまり平らでもないけど
鮮やかな黄色のマルバダケブキの花がいっぱい、えんえんと咲いていた。
1m近くもあるマルバダケブキに守られるように
小さなピンクのハクサンフウロがたくさん咲いていた。

★いけないことひとつめ
高望池(こうぼういけ)でテント泊。
幕営禁止とは書いてないけど正規のテント場でないのも事実。
まだ午後2時半だけどすでに7時間歩いていて
念のために水を家から各自2リットルずつ余分に担いできていたので
ザックは重いし、夜中に車を運転してきていたから眠かった・・・
それでも普通の道なら両俣のテント場までのあと3時間がんばれそうだった。
しかし、行き交かう人たちから「この先は倒木が重なるフィールドアスレチック状態」と聞き、
初日の重荷と寝不足でそれはきつすぎる・・・
とあきらめ、平らで水も豊富な高望池に張らせてもらうことに。

あとから単独行の男性が来て隣にテントを張り、私たちに
「馬鹿尾根なんてひどいと思いませんか?
展望もあるし変化に富んだいい尾根なのに・・・」
・・・ですよねえ!!
夕食が終わってから寝るまでの間、この人と楽しいひとときを過ごした。

★不思議な訪問者たち
やがて大荷物のおじさんが来て、水だけ汲んで両俣へ出発しようとしたら・・・
前から単独行の男の子が・・・
遠足みたいな軽装で早くに私たちを抜いていった足の速い子だった。
おじさんと私たちと高望池を見てキョトンとしている・・・
ここ通ったことある・・・この人たち見たことある・・・って顔。
おじさん「どこ行くんや?」
男の子「両俣です」
おじさん「おまえさんが来た方向やで! どっち向いとんねん!」(笑)
リングワンデリングしたもよう。
深い樹林帯だけど道ははっきりしていてガスもないのになんで・・・? 
こんなこともあるんやなあ・・・私たちも気をつけなければ・・・。

寝ようとしたらまた軽装の若い男性が・・・
しばらく地図を見て座り込んでいたけど黙って両俣へ出発していった。
夜の6時半ころでもう暗くなりかけていたのに・・・。
気になったけど、相方はいくらなんでもビバーク用具くらい持っているだろうし
心配してもしかたないと・・・。

うつらうつらしたところでリンリンリンと熊鈴の音・・・。
道をはずれてリンリンリン・・・うちのテントのまわりをぐるっと一周リンリンリン・・・
道に迷っている? もう暗いのに・・・
見ると単独行の若い女性が重そうな荷物を背負って
ヘッドランプ(というより懐中電灯)でうろうろしてる・・・。
熊の平まで行くという・・・ここからまだ6時間以上先・・・
「ここ空いてるからここへ張れば? 雨降りそうやし」
「いえ、少しでも先へ進んでおきたいので」
「水もジャンジャン出ているよ」
「あっ、水あるんですか・・・じゃあここにします!」

★超うらやましい
遠くで雷があるのか時々閃光・・・
すごく眠かったはずなのに雨の音のせいか
不思議な訪問者たちに脳が興奮したのか寝つきが悪く、
耳せんをしてドリエルを飲んでやっといくらか眠ったと思う。
相方はどんな条件でも横になるとすぐ眠ってしまう得な性分につき終始爆睡。うらやましい限り。

★「井の中の蛙」痛感
翌朝、倒木アスレチックの中で四苦八苦していると
ゆうべの女性に追いつかれる。
起きたのは私たちの方がずいぶん早かったのだけれど、
彼女はツェルトをテキパキたたむすばやい撤収で足も速かった。
かなりの長身で、私が上に乗ろうか下をくぐろうか迷っている倒木を
長い足でリン!と熊鈴を鳴らしながらあっさりまたぎ(笑)こし、
次の倒木もその次もまたいでまたいでリンリンリン・・・
熊鈴の音もあっという間に聞こえなくなった。
会では体力があるといわれる私だがまったく「井の中の蛙」である。

★ランナーに情報提供
独標や横川岳を含め小さなコブを登ったり下ったりして
両俣との分岐でもある最低コル(2200m位)の野呂川越を過ぎ、
また登り始めたころ、ゼッケン2番のランナーに追いつかれる。
前日ゼッケン4番だった田中氏と会ったことを話すと
「そういう情報がうれしいです!ありがとうございました!」
とさわやかに去って行った。

★3000mに1m足りない
2日めは一日中ガスっていた。
稜線歩きの一日だったのに。
特に剣岳と同じ高さの三峰岳(みぶだけ・2999m)のピークは
天気が良ければすごい展望だったはずなので非常に残念。
一瞬、携帯がつながったらしくKRCMLからメールが入る。
「3000mに1m足りない三峰岳山頂にいる」とメールを打ったけどつながらない。
ぶつぶつ言ってると「どうでもええやん」と相方。勝手なヤツ(笑)。

★山腹の赤い屋根
三峰岳からまたぐんぐん下っていると
向かいの山腹に赤いとんがり屋根の熊の平小屋が。
少しガスがかかっているのでおとぎの国のよう・・・
天空の城ラピュタ・・・(なんぼなんでも言いすぎやな、やっぱり・笑)
実際、お花畑に囲まれ、水の豊富なとてもいいところで
小屋もあるし・・計画通りここにテントを張りたかったが、
翌日も翌々日も雨という予報・・・
まだ11時だし、もう少し進んでおかなければあとが大変そう・・・
そんな話をしていたら、沢筋を下る予定だった単独行の人が
増水したら大変だからと来た道を引き返していった。
結局雨は降らなかったのでこの人に悪いことをしたような・・・。
私たちも予報を信じたからこそ、この後4時間、計10時間も歩いたのだけれど。

★霧の中の女性ランナー
北荒川岳のピーク直前、急登のハイマツ帯から脱け出るときに
私が10センチほどの石を落としてしまって
後ろに来ていたゼッケン3番の女性ランナー(間宮ちがやさん)に
あててしまうところだった。
彼女は石を足でさっと止め、コンニチワーと
これまたさわやかにガスの中へ走り去って行った。
帰ってからTJARのHPで謝っておきました。
それにしても、あんな視界の悪い中でなんで走れるんだろう・・・。

★いけないことふたつめ
なんにも見えない中、足元の高山植物たちをなぐさめに
いくつものコブを越え、ピークを越え・・・
地図に水マークのある雪投沢(ゆきなでざわ)を探して・・・

目をこらしながら歩くけどガスで遠くが見えない・・・。
水は熊の平からたくさん担いできていたので
どこでもビバークできるとはいえ・・・
稜線は目立つ上、強風が吹いていたし、なるべく快適なテント場を探したい。
地図に水と書いてある以上は絶対にあるはずだと信じて探していると
足元に「池ノ沢小屋方面」と書かかれた板を発見。
ただ、少し下りてみてもガレ場のせいか足跡は見えなかった。
地図を見て相談していると稜線から軽装の男性が下ってきた。
聞くと樹林帯まで下れば水があるという。よかった!

がんばった甲斐あってその夜はダケカンバに守られて風もなく
平坦で水も豊富、という最高のテント場で過ごすことができた。

帰りのバスで一緒になったご夫婦は、
北岳から縦走してきてこの場所を見つけられず、
しかたなく夕方まで歩いて塩見小屋で泊まったところ、
「いったいどこにテントを張るつもりだったんや!」
と小屋の主人に叱られたそうだ。

★今度は快晴!
そして、翌朝の塩見岳山頂は快晴!!
一昨年の秋に初めて来た時はガスでなんにも見えなかっただけにうれしい。
大展望の中、相方は単独行の男性の力を借りて山座同定に忙しい。
この男性は、三伏沢を下って大井川東俣を遡行してきたという。
どおりで「大きなザックにジョギングシューズ」というちぐはぐな格好のはずである。
今回はこういったオリジナルな山行をしている人によく会った。

私は前日に自分が歩いてきた尾根、稜線をただぼーっと眺めるだけで満足だった。
ガスってなければ見えたはずの景色を想像したりしながら・・・。
それにしても仙丈からの長い道のり・・・よう歩いたなあ・・・
うわ、あそこあんなに下ってるやん、しんどかったはずやわ・・・などと。


★お腹グーグー山行
塩見山頂にいつまでも座っていたかったけど人がどんどん登ってくるし、
私たちもお腹がグーグー鳴っていたので下りることに。
今回は水節約のために朝食をカロリーメイトにしたものの、
予想通りモソモソして喉を通らない。
珈琲で流しこむつもりだったけど、実際やってみると吐きそうに・・・(笑)。
なので毎朝、お腹を鳴らしながら朝イチの登りを登ることになってしまった。

塩見を下った樹林帯で、登ってくる人たちの見世物になりながら
予備食のラーメンを作って食べる。
「なに作ってるんですか?」
「棒ラーメンです」
「ぼう・・ラーメン?」
マルタイラーメン、有名だと思っていたのに。
「おいしそうやなあ」
「800円!」
「安いなあ、もらおうかなあ」(笑)

★ほんとに行くの?
三伏峠では、ゼッケン何番かの男の子が
好奇心の強い登山者たちに囲まれ質問攻めにあっていた(笑)。
話しながら食事を終え、立ち上がって歩き出す男の子の短パンから出た足は
それまでに会ったほかの選手たちの筋肉質の足とは違ってすらっと細く・・・
いわゆる「膝が笑う」状態になっていて
「ほんとに続けるのか? 足、痛そうに見えるけど・・・」と心配する声が・・・
「大丈夫です。がんばります!」 と
ほんまに大丈夫なんやろかと顔を見合わせる私たち登山者をのこし
男の子は出発していった。
がんばれ、男の子!

★山よりお風呂?
3泊4日の計画だったけど、予定より早く進み、2泊3日で下山。
いくら山が好きでも、夏山で3日めともなると
それも連日7時間以上歩いていて目標も達成してしまって、
おまけにガスってきて上部は見えないとなると、
できるだけ長く山にいたい気持ちより
早くお風呂に入りたい気持ちが優先してしまう。

それからの下りの途中でまたラーメンをつくって・・・
南アルプスの濃い緑と光るようにみずみずしいコケを眺めながら
お茶を楽しみ、チョウチョを追いかけ写真を撮る・・・(笑)
あれは「2000キロの渡りをする」というアサギマダラだったと思う。(勝手に思っとけって?)
ゆっくりと鳥倉登山口に向かい、その日の最終バス(14:20)に乗った。

★下山その後
登山口はカンカン照りで暑かった。
バスが来るとあちこちの木陰から人がわらわらと出てきて、
すぐにバスに乗れるよう荷物を担いで待った。
・・・それなのにバスはひとことの説明もなく通りすぎて遠くに停車したまま・・・
文句も言わず荷物を担いだまま炎天下でじっと待つみんな・・・。
私はひとりアホらしくなって木陰に戻った。
ああ、温厚なる登山者たちよ・・・

と思ったけどそうでもない人が私のほかにも一人いた。
しかも私よりずっと怒りんぼだった。
運転手さんに「説明のしかたが悪い」とすごい剣幕で怒ったあげく、
「アタマ悪いわねっ!!」と言い捨ててやっと座った女性がいたのだ。
私でも初対面の人にそこまでよう言わんわ(笑)。

バス内はしーんとしたが、
やがてみんなで帰りの電車時間の情報交換や
お互いの歩いたルートの話などで楽しく過ごした。

するとまたハプニングが・・・
道の駅でトイレ休憩していたときに
無理矢理乗り込んできたおっちゃんがいたのだ。

そのおっちゃん、朝の10時に登山口に到着したものの、
バスは9:20と14:20の2本だけ・・・。
「4時間も待ってられるか!!」と車道を歩いたそうだ・・・笑。
炎天下を3時間も・・・。
集落に出たところで親切な人の車に拾ってもらって
道の駅で運良く高速バスの予約がとれた(ものすごい行き当たりバッタリの人やなあ・笑)
ちょうどそこへまたまた運良く高速バス乗り場行きのこのバスが来たとかで・・・

運転手さんが「臨時バスなので途中乗車の料金がわからない、
すぐ常時のバスが来るしそっちの方が空いてるから・・・」と説明しても
「席あいとるやんけ」とか「料金表の電気つけたらわかるんちゃうんけ?」
と食い下がる・・・
コテコテの大阪弁でなくても大阪のおっちゃんだとわかる押しの強さ・・・(笑)。

運転手さんもさっきの件がこたえていたのか、
しかたなくおっちゃんを乗せてあげてた。
他の乗客も「どーしてもこのバスでないとダメらしいなあ」と笑っていた。

伊那大島駅は小さな小さな駅だった。
駅に着いたら買い物して観光案内所で宿の予約をしてもらって・・・
と楽しみにしていた私は
駅名の看板がバスの座席に座っている私の目線よりも下に見えた時、思わず
「ちっちゃい・・・駅ちっちゃい(泣)」とつぶやいたつもりだったけど
なにごともおおげさな私のこと、悲鳴に近い声をあげてしまったのかもしれない。
周囲の人に笑われ、「コンビニもないなあ」と子供をあやすように言われた(恥)。

運転手さんも笑っていたけど災難な一日だと思っていたことだろう。
女性に怒鳴りつけられ、おっちゃんに無理矢理乗りこまれ、
おとなしかった乗客まで駅が小さいと文句を・・・笑。

伊那大島駅には申しわけ程度の小さな売店があり
電車が走っている風景の写真がたくさん飾られていた。
鉄っちゃんたちには有名な路線なのかもしれない。

その飯田線は1時間に1本しかなく
単線のためしょっちゅう停車するけど
のんびり電車の旅をするにはもってこいの路線だった。
伊那盆地の「へり」にあたる山沿いの少し高いところを走るので
景色がとても良かった。
「諏訪湖花火大会のために今日の電車は大混雑します。
座れない人がでるくらいです!」
と、たったひとりの駅員さんが言ってた(笑)。なんかエエなあ。

2時間近くかかって到着した伊那駅にも観光案内所がなく、
もう考えるのも面倒になりタクシーに乗り込んだ。
伊那インター駐車場に着くまでの間に
運転手さんに温泉を教えてもらい宿を探してもらって
なんとかビジネスホテルに泊まれた。

とても充実した三日間だった。

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